最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1509号 判決
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人布施辰治上告趣意第一点について。
しかし原判決はその冒頭において「被告人は……金履植と相談の上転出証明書を偽造行使して主食を騙取……ことを企て」と判示し、判示第一事実として所論前段の摘示に続いて「同月一〇日頃埼玉縣秩父町相生町四二九一番地被告人方で金履植と共に行使の目的で被告人が使用していない大上源治等九〇数名の名簿を提供し金履植が右転出証明書用紙二〇枚の表面……所要記入欄にペンで右大上源治外九七名の氏名其の他の所要事項を書入れ被告人が裏面配給物資記入欄の……項に「昭和二三年二月一五日」というゴム印を押し味噌、醤油、塩の欄にペンで……「二」の字を入れ次で同月一四日頃千葉縣館山市内幸田旅館で転出先欄に「千葉縣安房郡豊房村」という文字を書入れ……右東京都中野区長皆川五郎の作成すべき転出証明書二〇通(昭和二三年押第三二六二号の一)の偽造を順次完成し」と判示しているのであるから、右第一事実の判示は原審が被告人と原審相被告人金履植とは転出証明書の偽造を共謀し偽造文書の素材に供する目的で氏名住所不詳の朝鮮人から判示の転出証明書用紙を買受けこれに判示のように年月日、氏名、数量、転出先等を記載して本件転出証明書の偽造を完成したものと認定判示したものであることは明白である。すなわち、文書偽造罪の構成要件事実を判示したものと認むべきことは疑いのないところである。これに反し、所論は右判示をもって文書変造を判示したものであると主張するのであるが、被告人等が買入れた転出証明書用紙にすでに一部偽造の箇所があったにしても未完成部分にさらに虚偽の事実を記入し偽造文書として通用し得る程度に偽造を完成したのは文書偽造の範疇に属するものと解するを相当とする。しかるに、所論のごとく文書変造を認めんとするには、真正に成立した文書を基本とすべきであるという点から見ても、所論の見解の正当にあらざることを知るに足るであろう。
所論は結局判示にそわない事実を独断して原判決の擬律を非難するにすぎないものであるから採ることができない。
同第二点について。
所論の例のごとく窃盗犯人がその賍物を処分しても窃盗によってすでに侵害した同一財産法益を引続き侵害するにとゞまる限り、その処分行為は窃盗罪に包攝されてしまうものであることは所論のとおりであるが、これと異なりその処分が窃盗によって侵害された法益と別箇の刑罰法規の対象である別異の法益を侵害する場合には窃盗罪の他に別箇の法益侵害に対する犯罪の成立することも亦多言を要しないところである。(昭和二三年れ第一一一七号、同二四年七月二二日大法廷判決)。されば被告人等が公文書を偽造行使して詐取した米麦を他に賣却するについても詐欺によって侵害された財産法益が引続いて侵害されるにとゞまる場合は所論のように賣却の所為は詐欺罪に包攝されると解すべきであるが、本件の場合のように米麦の統制價格を超えて賣却した場合は詐欺罪によって侵害された法益と別異の法益である物價統制令の保護せんとする国民生活の安定という法益を侵害するものであるから、原審において被告人等が詐取した米麦を統制價格を超えて賣却した所為に対して物價統制令を適用して処断したからといって原判決には所論のように二重に処罰した違法は毛頭存しない。論旨はそれ故理由がない。
同第三点について。
しかし物價統制令第三六條は刑種を法定したものであって一種の法定刑を規定したものと解すべく、従って訴訟法は所論特殊犯情を判示し且つこれを説明すべきことを命じていないのみならず、情状により法定された刑の範囲内で量刑することは特別の理由なき限り事実審の裁量に属するところである。されば、原審が被告人に対して、罰金と懲役とを併科した情状について判示しなかったからといって原判決には毛頭違法のかどは存しない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
よって旧刑訴四四六條に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)